北千住に着くが、まだ少し時間があるので本屋に入ってみた。すると探していた下町酒場巡礼を見つける。その横には、前に電車に置き忘れた東京酒場漂流記もあるので両方買い込む。大はしの近くで少し待つと暖簾が出された。入ると間口から予想するより奥行きがあり、広々している。四角いJの字型のカウンターとテーブル席がいくつか。
カウンターの切れ目のあたりに座ると、もうお客が入ってくる。焼酎と炭酸、と言うと、「おいっ」という掛け声と共に氷の入った器、瓶の炭酸、レモンのスライスの入ったコップ、梅割りの器(小さい皿と厚手の小さなグラス)がタンタンタンと勢い良く並ぶ。手際のよさに見とれていると、「梅は入れますか?」と訊かれ、慌てて「入れてください」と応えた。本当は単なるチューハイが飲みたかったんだが、後の祭り。
梅割りは昔学生の頃後輩が住んでいた五反野駅前で飲んだきりだから25年ぶりに目にする。はぁ懐かしいやと思いつつ啜る。学生の時に感じたドシンとくる感じがないのは酒に慣れたためか。別のコップに氷と炭酸を入れてチェイサーにしてみた。名物の肉豆腐を頼むと、掛け声と共に10秒位で出てくる。店員がカウンターを行き来する速度は、会社に向かうサラリーマン並み。肉豆腐は、肉と豆腐だけで葱も乗っていない。見た目はしょぼいが食べると旨い。
隣のお客が肉豆腐とチーズと銀だらを頼んでいたので、「ここは銀だらが旨いんですか?」と尋ねると「ええ、焼いてあって旨いですよ」と教えてくれ、自分も頼んでみた。次々にお客が入ってくる。1人客が多い。皆例外なく肉豆腐を頼んでいる。この辺で酔ってきて隣のお客2人と3人で喋りだす。隣の人は65才位、その向こうの人は自分より少し若い位に見える。2人共キンミヤのマイボトルで飲んでいる。
若い方の人は学生時代に居酒屋研究会に入っていたそうで、結構詳しそう。私が飲んでいる梅割りを見て「それですよねそれ」と言っている。おやじさんも「そうなんですよ」としきりに感心している。そう言われると悪い気はしないのでピッチが上がっていく。若い人は三ノ輪の遠太のファンらしく、熱く語っている。十条の埼玉屋のおやじさんと口論になり、もうあそこには行かないと言う。それもわかる気がする。彼は気合の入った酒飲みらしい。銀だらは旨い。
お代わりしていると「強いですね」と言われ、またピッチが上がる。焼酎も炭酸も言えば即座に出てくるのが実に気分が良い。トイレに立つと、店はもう満員になっている。梅割り6杯目で急に飲めなくなった。これが限界らしい。炭酸を流し込み、お勘定。2人と握手して店を出た。金額は覚えていない。
日暮里で降り、川むらで蕎麦を食べようかと覗いてみたが、当然ながら満員。向かいのルノアールでコーヒーを飲む。川むらを見張っていると、出て行くお客と入れ替わるように次のお客が入っていくので、あきらめて谷中銀座を抜け白山通りに出る。空腹と酔いに任せて丸金ラーメンに入り、替え玉まで頼んでしまう。家に着くと今日買った下町酒場巡礼を大はしに置き忘れたことに気づいた。
足立区千住3-46
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